にぎやか報告
今年の夏の終わり、にぎやか・かっぱ庵は、
とても厳しい体験をした。
8月26日
デイ利用者が感染に気づかず、かっぱ庵を利用する。
自宅から参加されたその利用者の様子に最初に気づき
対応した看護師が、感染した。
8月28日
職員発症。
あとは、日にちをずらしただけの発症報告が、
立て続けに続いた。
職員より利用者さんのほうが軽症であった。
しかし、9月になって最高齢の利用者が亡くなる。
かっぱ庵で最期を過ごせたことがせめてでもあるが
責任者の阪井由佳子さんには、重かった。
「なんで、コロナの時に死なないかんの」
「なんねあのビニール!信じられんわ」
家族と一緒に泣く、家族より悔しくて泣く。
怪獣が吠えるみたいに泣く。声が大きい。
もう一人、重症発症のおばあちゃんが緊急入院する。
肺炎治療。IVH(高カロリー輸液)開始。
ばあちゃんは、あらゆることを拒否する。
取り急ぎの肺炎症状は治ったので、IVHを抜去して退院。
家族要望により、かっぱ庵に帰ってくるとのこと。
人手の足りない中、
私(高口)も付き添いで、退院介助に入る。
一目で重度とわかる。
IVHを抜去したのは、
家族の要望に病院が応えたと思われた。
最期になっても良いから、無理をせず穏やかに過ごす為に、
かっぱ庵に帰ってきた様子である。
ばあちゃんは、
かっぱ庵のベットに横たわっても、口を開かない。
このままでは間違いなく脱水になる。
家族は、無理せず穏やかにと職員に丁寧に頭を下げる。
職員も、心を決めなければならないことを思っていた。
「ばあちゃん!あんた!
口開けないって、どういうこと!」
「私、コレ買ってきたんよ!高いプリン!
コレ、好きでしょ!買ってきたよ!高いプリン!」
声が大きい。この場面でこの音量は無いやろ!
と言ってやろうと思って、
声の主である阪井由佳子を見ると、なんと、
ベットに上がって、ばあちゃんにまたがって、
ばあちゃんの好物のプリンをスプーンで口に運んでいる。
「コレ好きやのに、なんで食べんのやろ信じられん」
と、本気で言ってる由佳子、あんたが信じられんわ。
「私は、ばあちゃんを死なせんからね」
今日、病院から戻ってきた人に、それ言いますか⁉︎
「ばあちゃんは、死にたいね。生きたいね。どっちね⁉️」
真っ直ぐ大きな声で、ドンドン詰め寄る。
昨日まで、IVHで生きてた人ですよ、この人!
穏やかに静かに、できんのかい!
「死にたいか?」と大きい声で馬乗りできかれて、
ばあちゃんは、目をパチパチしている。
「生きたくないね!生きたいでしょ!」と、
由佳子は少し泣いている。
大きい声じゃないと、由佳子が崩れてしまう。
ばあちゃんは、ゆっくり頷く。
「ほうら、そうでしょうが、私の言う通り!」
私を手招きして呼ぶ。
ばあちゃんが生きたい!と言った!と私に自慢する。
私もつられて叫んでしまう、
「ばあちゃん、やかましい!って言いな!
生きるも死ぬも、私の勝手って言いな!」
ばあちゃんは、目を閉じてしまった。
そう、うるさくてたまらないのだろう。
私は、病院を退院する時のばあちゃんの様子から、
ターミナルステージだろうと思った。
静かに穏やかには、家族も望んでることだ。
だけど、阪井由佳子は気に入らない!納得しない。
「私は、ばあちゃんを死なせない!」
こういうことを言うんだよな、阪井由佳子は。
そして「助けて下さい」と大きい声を出す。
そして人が集まる。
訪問診療の先生が、職員みんなに教えてくれる。
看護師が、近くのみんなが、ばあちゃんに集まって来る。
かっぱ庵の毎日は変わらない。
少しずつ、ばあちゃんは元気になる。
ベットに横たわっている写真が、
退院して来て間もないばあちゃん。
車椅子の後ろ姿の写真が最近のばあちゃん。
すごいなぁ、よかったなぁ…と、
阪井由佳子さんに伝えようと思って連絡したら、
「私がコロナになっちゃった!」と、
大きい声で言っていました。
やかましいわい!
以上、にぎやか報告でありました。